Environment
環境
オーストラリアの環境は、その人間の歴史と相互に影響し合っている。ヨーロッパからの入植者の第1世代は、オーストラリア大陸を敵意のある、不毛で、人間が住むのに適さない土地、打倒し、飼いならし、征服すべき敵であるとみなしていた。彼らの入植により人間と自然の均衡は大きく人間側に傾くことになった。20世紀の地理学者グリフィス・テイラーと歴史家キース・ハンコックはそのような、ヨーロッパ人の到来による環境の変化に警告を投げかけた。現在、オーストラリアの文筆家たちの間では環境をもろく、脅かされ、使い果たされたとみなすのが一般的であるが、それに否定的なジェフリー・ブレイニーのような立場の研究者もいる。
オーストラリアの環境は独特の生態系の歴史の産物であり、その様子はティム・フランネリーの著作The Future Eater (1997)で研究されている。オーストラリア大陸は他の大陸に比べ地質学的に古く、平坦で風化されやすい。また鉱物資源が豊富だが、土壌は浅く、作物が育ちにくい。大陸の大半の地域は少雨で、大河はほとんどない。気候は基本的に温暖で、雪は南部にある高山の頂上付近にしか降らない。エルニーニョ現象の影響で、乾燥した時期と洪水の時期が周期的に訪れる。ユーカリやアカシア、乾燥気候に適した硬葉樹が主要な植物種である。主な動物相は有袋動物や単孔類となっている。アボリジニナルの人びとはこの環境の中で、5万年以上生活してきており、独特の性格を有した環境を認識し、火を使うことでそれを利用してきた。
1788年以降、ヨーロッパ人はこの環境を様々な方法で修正してきた。彼らの最初の試みは海の開拓だった。彼らは1世代のうちに南部の海岸地帯や島々に生息していた大量のクジラやアザラシの資源を枯渇させた。大分水嶺山脈を越えて以降、その試みは牧草地を求めての内陸草原の開拓になり、そしてその後は主に山麓丘陵に埋蔵されている鉱物資源、特に金の採掘へと移っていった。新しい土地にやってきた人々が最初にすることはほとんどの場合、木の伐採であった。それにより広大な面積の森林が伐採され、輸入生物、特に羊や牛のための牧草地として利用されることになり、それは今もオーストラリアの半分以上の土地で続いている。
鉱業は牧畜や農業と比べて環境への影響範囲は狭いが、もっとも破壊的な産業である。ヴィクトリア州の中央部の金鉱山や、ハンター川の炭鉱、西オーストラリア州の金鉱山地帯タスマニアの西部のように集中的に採掘がおこなわれた地域では、地下に何千マイルもの坑道がハチの巣状に掘られている。坑道の支柱や燃料のための木材伐採により丘陵の斜面からは木がなくなり、川の流れはかえられ、沈殿物や浮遊選鉱により汚染されることもあった。露天掘りのための高度に機械化された技術や鉱物砂の加工は遠く離れた地域の環境にまで被害を及ぼしている。
ヨーロッパ人は農耕民族であり、オーストラリアを農業国家にしようと試みていた。彼らは切り株ジャンプ犂を用いて新しく開拓されたヴィクトリア州のウィメラWimmeraや南オーストラリアのマリーMallee地帯を耕し、乾燥気候に適した新種の小麦を植えた。当初、収穫量はよかったものの、すぐに地中の窒素を使い果たしてしまい収穫量は減少した。繰り返し耕すことで土壌はきめを失い、大雨が降ると川へと流されていった。干ばつ時には砂塵嵐が起こり、貴重な土壌が大気中へと舞い上がり遠く離れた地へと運ばれることもある。
白人オーストラリア人たちは科学と技術ならオーストラリアの厳しい環境を飼いならすことも可能だと考え、荒廃した大地の灌漑を試みた。牧畜業者は風車を建て、水を得ようとした。灌漑の先駆者チャフィー兄弟はマリー・ダーリング川水系から水を引くことで果樹栽培とワイン産業を成功させた。灌漑による事業の成功は戦後まで続いたが、地下水を維持可能な量以上利用し続けていた。灌漑により地下水面が上がり塩類の集積が起こった。1997年までにヴィクトリア州の灌漑地域の3分の1が塩害の被害を受けた。また殺虫剤や他の化学薬品が川に流れ込み被害が出ることもある。
ヨーロッパからの定住による環境への影響は、高度に都市化した性格のために限定的で局所に集中したものとなった。19世紀に都市には地下下水設備や良好な廃棄物処理システムがかけており、また食肉処理や皮なめしなど有毒物質を排出する施設が多数あった。有毒物質は人体に被害を及ぼす量まで蓄積し感染症にまでなることもあった。20世紀には有機廃棄物による公害の恐れは取り除かれたが、工業薬品や自動車の排ガス、飛行機の騒音による公害が増大している。
オーストラリアの環境は入植者のみならず、かれらが持ち込んだ外国の生物種によっても変えられてきた。ウサギやキツネだけではなく、落葉樹やマス、馬や犬に至るまで固有種に負担をかけている。1788年から在来の動物相と植物相の数は減少を続けており、現在多くの種が絶滅、またはその危機に瀕している。
後藤貴洋0116