Educational history

教育の歴史

　教育は1958年に、A.G.オースティンAustinの書いたGeorge William Rusden and National Education in Australiaから始まったと言われる。続く10年に、メルボルン大学教育学部から教育史研究を行う集団が誕生し、19世紀における公教育の発展を中心的関心として扱った。主要な書物にはオースティンによるAustralian Education 1788-1900(1961年)、グウィネス・ダウGwyneth DowによるGeorge Higinbotham: Church and State(1964年)などがある。

　オースティンは自身の研究を1950年代～1960年代にかけての19世紀の教育的議論内に位置づけた。この学校教育の制度は不完全ではあったが、すべてのオーストラリアの子供が効果的な初等教育を受けられるという信念をもっていた。1950年代における教育と宗教の関係に関する議論は、政治的な対立にも発展した。Catholic Education in Australia 1806-1950(1959)を出版したロナルド・フォガティRonald Fogartyは、カトリックの教育制度すなわち、1872年の国家援助の停止に耐えてきた宗派による教育制度が、自由主義的・世俗主義的な国家への抵抗だと考えた。フォガティの著作が出版されて以降、カトリック教育の歴史は主として制度的な歴史と重要な人物の伝記とに細分化された。　1970年代までに主要なテーマは国家援助の問題から移動した。1960年代の初等、中等、高等教育における巨大で無計画な拡大は学校を限界へと陥らせた。そして未熟な教師、人であふれた教室、時代遅れな教育過程のような問題が顕在化した。このような背景に対して、修正主義歴史家の若い世代は、再び19世紀の国家教育へと関心を向け、なぜ過去にそのような大きな理想をもって始めた制度が現在の不平等を導いていたのかという問いを立てた。彼らの初期作品は、ネオ・マルクス主義的観点から、学校教育の失敗の原因を、教育が西洋民主主義諸国において、教育が社会統制の手段とされたところに求めた。修正主義者の中心テーマとなったのはジェンダーと年齢であった。彼らは監獄、矯正施設、収容所、公立学校などに19世紀の支配形態におけるパラダイムシフトがあると主張した。

　プロテスタントの私立教育史は重視されていなかったが、ジャネット・マッカラムJanet McCalman’のJourneyings: The Biography of a Middle-Class Generation 1920-1990(1993年)は、その中心テーマとしてメルボルンの私立学校の経済的・文化的意味を取り上げた。他にも、グレグ・デニングやキャスリーン・フィッツパトリックの研究がある。

　1970年代、フェミニストの歴史家たちは男性中心主義的な国家-教会関係というテーマに疑問を持つようになった。彼女たちは現在の不平等への関心を修正主義者たちと共有し、オーストラリアの女性の平等を達成するのに、教育制度が失敗した原因、とりわけ男女共学の制度の失敗を説明するために、女性教育の起源に関心を持つようになった。彼女たちは女性の大学への入学、最初の卒業生のキャリア、参政権運動への参加の目的などを考察した。またPLCやブリズベーンのGirl’s Grammarのような初期の中等教育ついて疑問を持ち、保守的な要素と急進的な要素が同じ制度内で共存していたのかもしれないという可能性を検討した。また、女教師も重要な研究の対象になった。新たな社会史の影響も教育史に現れた。歴史家たちは普通の家族と教師が義務教育にどのように応じ、その実施にかかわったのかを問うた。学校教育に関して疑問をもった。バリー・コールドリーBarry ColdreyのThe Scheme: The Christian Brothers and Child Care in Western Australiaは、孤児に対する無慈悲と性的虐待を扱う研究である。

　柏恭平0116