オーストラリア辞典
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Water resources

水資源



 オーストラリアの雨量は非常に不安定である。その主な原因は3つある。

(1)緯度が高いこと。

(2)土地の高低差が少ないこと。

(3)海洋に囲まれた大陸という特殊な条件であること。

これらの条件に加えて、オーストラリアに特殊な景観、土壌、植生が、さらにいっそう不安定な河川の流量を生み出している。年平均雨量は5大陸中最も少ないのだが、大部分の地域で河川の最大流量と月または年平均の流量の較差は非常に大きく、逆に大きな河川でも流水がまったくなくなる時期がある。マリー・ダーリング川流域も例外ではない。

 クィーンズランド北東のバーデキン川Burdekinは、オーストラリアでおそらく7番目に大きな川であるが、ダムが建設され川の流れが制御されるまでは、毎年と言っていいほど干上がっていた。この川は1958年、最高流量毎秒38,500立法キロという流量を記録し、流域には1,500億メガリットルという洪水をあふれさせたが、その7ヵ月後には干上がったのである。オーストラリアの動植物は、この大陸特有のユニークさを持っているが、河川も同様である。そしてこのユニークさは、この大陸の気候、すなわち降雨の特殊性に順応したものである。

 海岸地域への人口と工業の集中は、都市生活水準を維持する必要性ともあいまって、異常なまでの水の需要を生み出した。これは地域水資源に対して過大な負担となっている。将来的には、大陸北部の人口の少ない地域の豊かな水資源を開発する計画があるが、従来型のダム用地を欠いているので、それはかなり困難である。オーストラリアの都市人口と産業の多くは5つの海岸地域、すなわちブリスベン、シドニー、メルボルン、アデレイド、パースを中心とした地域に集中している。アデレイドとパースの水資源はすでに限界に近づきつつある。パースは、その結果、地下水への依存度を増やし続けているが、その地下水も無限というわけではない。アデレイドは、その水需要の40%をパイプラインでマリー川から引いているのだが、旱魃期には依存度を70%にまで高めざるを得ない。

 川から引き入れられた水の80%以上は灌漑用である。都会では家庭用が大部分を占め、その多くは庭の散水に用いられている。他の先進工業国との大きな違いは、火力発電の冷却水は河川ではなく海水、または特別の冷却水用溜池から取られていることである。

 オーストラリアの年間雨量は平均420mmであり、このうちの48mmだけが周囲の海に流出している。南極大陸は150-200mmの降雨量に対して約160mmを海に流出している。オーストラリアが最も乾燥した大陸であるといわれる所以である。オーストラリアの大地の半分に近い地表が海へつながる水路を持たない。この内陸の3分の1の水がエア湖に流れ込んでいるが、ここは海抜マイナス15mというオーストラリアで最も低い地帯である。

 マリー・ダーリング水系(約1億600万ヘクタール、オーストラリア大陸の7分の1を占めている)は、エア湖水系と同じ広さがあり、南オーストラリアの海に1,220万メガリットルの水を流し込んでいるが、この量はその流域の年平均地表流水量の半分にも満たない。残りの量は、広く平坦な流域を水浸しにして洪水となり蒸発してしまうのである。今日使用可能な水の量は年間地表流水量の4分の1程度に過ぎないと推定されている。実際に利用されているのはその5分の1、年間地表流水量の20分の1に過ぎない。もし総地表流水量を人口で割れば、1人当たり28メガリットル使用可能ということになり、この量は先進諸国と比較してもはるかに大きいし、カナダ、ニュージランドなどの水の豊富な国に劣るだけである。

 ところが年間地表流水量の50%以上が、ただしそれは使用可能な水の7分の1ではあるが、南緯20度以北の北オーストラリアに存在する。この地域の開発は遅れており、人口は少ないが開発の可能性を持った地域である。しかし、起伏が少なく川の流れを制御して貯水することは不可能に近い。時には大雨と洪水をともなう夏のモンスーン、南国性のサイクロンや日照りなどの不規則な降雨資源がこの地域の特徴である。

 水をいかに有効利用するかは、オーストラリアの発展の方向と性格を決定づける重要な要素である。地下水は地表近くまたは地下深くに分布する堆積土や堆積岩の中に含まれている水である。オーストラリアには広く分布が見られる。地下水のある場所によって、量においても質においても大きな差があるのだが、地表の水に頼れない地域では、地下水は多く利用されている。

 オーストラリア経済の中で重要な役割を持つ牧畜、農業、鉱業はすべて内陸部に位置し、この地域は低地で、降雨は気まぐれであり、河川の流量は定まっていない。しかしながら、これらの地域の多くは、大きく深い地下水の溜まり場を擁している。地下水は堆積層や地表の岩の割れ目などからも供給されている。水を含む堆積層には岩石状のものと砕石状の堆積層があるが、これらは帯水層aquiferと呼ばれている。岩盤状の堆積層は大陸の65%を覆い、破砕岩状の堆積層は35%を占める。

 国土の60%以上に及ぶ地域は完全に地下水に依存しており、さらに20%の地域でも地下水は主要な水の供給源とされている。オーストラリアの軟水地下水の供給可能量は、年推定720億立法メートル(7,200万メガリットル)であるとされている。これに対し、河川水の供給は推定1億1,800万メガリットルである。最近では、年間およそ270万メガリットルの地下水が使用され、これは大陸の年間全軟水供給量の13%に当たる。加えて、相当量の硬水の地下水資源が存在している。

 地下水の汲み上げは灌漑地域で多く、これは主に地表近くの帯水層から汲み上げられている。オーストラリアで使われる水の4分の3は灌漑用である。約170万ヘクタール(その半分は牧場である)の土地は灌漑されており、灌漑用水の12%が地下水である。そのほとんどが個人の井戸からの汲み上げられている。大陸南東部、東部、南西部の周辺地域に広く井戸が分布している。全体として約40万の井戸があり、これらの井戸は年間水使用量の14%、約1,460万メガリットルを供給している。

 地表に近い帯水層のほとんどは古い岩石の堆積岩であり、河川の流水によって堆積されたものである。これら沖積土砂のほとんどは新生代期に形成されたもので、地表から150m以内にある。良質の水を産出する表層の帯水層は、南東オーストラリアのグレイト・ディヴァイディング・レインジ周辺部及び海岸地帯にある沖積層である。この地域では地下水は灌漑用と都市生活用水に使われている。

 しかしながら、地下水の開発は表層の帯水層を変化させ、深刻な問題を引き起こしている。クィーンズランドのバーデキン・デルタ、ロッキャー・ヴァリーLockyer Valley、コンダマイン・ヴァリーCondamine Valley、ニューサウスウェールズのナモイ・ヴァリー、南オーストラリアの北アデレイド・プレインズなどの地域では、開発の行き過ぎが大きな問題になっている。また、何年も続く旱魃のような天候の不安定さも地表付近の帯水層には深刻な影響がある。

 地下水の過度の取水をやめさせ、塩水の侵害を食い止めるために、地下水の摂取制限が、バーデキン・デルタやその他の地域で採られており、地下水を補填する方策も考えられている。ナモイ・ヴァリーでは、年間175,000メガリットルの地下水が、地表近くの帯水層から汲み上げられているが、このほとんどが灌漑用水と都市生活用水である。ここでは、120mに達する深さの沖積層の水源から毎秒200リットルを超える水が汲み上げられている。オーストラリア南東部の海岸地域では、水源は小さく開発も部分的であるが、ハンター、ミッチェル、ラトロウブなどの地域では地下水資源の開発が大規模に進められてきている。

 クィーンズランドの一部地域、ニューサウスウェールズのニューカッスル、タスマニアなどでは、海岸砂丘が重要な地下水資源となっている。スワン海岸平野の砂丘はパース盆地の深い帯水層の上にかぶさり、パースの年間都市生活用水の40%を供給している

 地表に近い地下水の年間総汲み上げ量は20万メガリットルであり、そのほとんどが個人の井戸からのもので規制が困難であり、庭用、灌漑用、工業用などに用いられている。過透性の高い地表近くのこれらの帯水層は水質汚染の影響も受けやすい。

 オーストラリアの乾燥地域や半乾燥地域の地下深くにある、複数の大きな堆積岩盤層は、これらの地域の貧弱な地表水を補い、土地の開墾や居住のための重要な地下水資源を供給している。オーストラリアのおよそ30%の地下水は、古生代、中生代、新生代の堆積岩盤層にある深い帯水層から汲み上げられている。これらの水脈の中には、その堆積層の厚さが数千メートルに達するものもある。その中でも、大鑚井盆地(水系)、マリー川、パース、ジョージーナ、デイリー、オトウエイなどの水系が有名である。これらの水脈は広大であり、例えば最大の大鑚井盆地(水系)は170万平方キロを覆っている。マリー水系でも30万平方キロの広さを持つ。

 これらの深い地下岩盤層にある帯水層は堆積岩からできており、数千から数万メートルの厚さがある。これらの層は広い範囲にわたっているが、半透過性の岩盤層の間に水は閉じ込められており、数層の水脈を作っている。地下深い水脈は、通常、浅い地下水より水質が良い。閉じ込められた帯水層では、水圧が加わり続け、非透過性または半透過性の岩盤層によって上、下方に向かって圧力を受け、噴出する。これが自噴井戸である。すなわち、幾層もの帯水層には地下水が充満し、これらの帯水層に掘られた井戸の水はその上部の帯水層との境界の上にまで達する。そして、溢れ出し、水は地表にまで噴きあがってくるのである。

 マリー水系は第3紀の陸と海の堆積層によって閉じ込められた地下水脈で、600mの厚さを持つ。地下水は生活用水や灌漑用水のために広範に汲み上げられ、特に都市への供給は増加の一途をたどっている。オーストラリアの最も重要な農業地帯がこの水系の域内にある。水量も水質も地域によって大きく差があり、特に水質は浄水から高濃度の塩水まで様々である。塩水の濃度が海水の数倍という所もある。

 帯水層へは河川の谷や沖積層の高度の高いところにある扇状地から水が供給されている。この水は、東部や南部では河川域を取り囲んでいる地面を水浸しにする。地下水脈は大陸の中西部へと流れている。しかし、その流れの一部はマリー川でさえぎられる。マリー川の地表水は主に灌漑用に開発利用されており。アデレイドと南オーストラリアの大部分の水の重要な供給源である。ところが、大規模な原生林の伐採によって、帯水層への水の供給が増加し、土壌の塩化と塩水の発生を招いた。土地の灌漑は、灌漑された土地の下に大きな地下水の水溜りを生じさせ、この地域の地下水レベルを上昇させ、塩害の原因となっている。

 破砕岩(火成岩、変成岩、堆積岩など)の中の帯水層からも、岩の割れ目、破砕部分、接合部、空洞、また風化部分などを通って地下水が供給される。この地下水は、量質ともに劣ることが多いが、多くの乾燥した高地で草木のない地域では、このような水脈が豊富にあり、主な水供給源となる可能性がある。

 オーストラリア全体の井戸の3分の1は破砕岩の帯水層の中にあり、年間31万メガリットルの水を供給している。これは全地下水汲み上げ量の10%を占め、農業用水と家庭用水として利用されている。多くの地域で人々は井戸水に依存しており、個々の井戸の規模は小さいが、その技術は発展改善されてきた。

 破砕岩の中の水脈の井戸の3分の2は大陸の東部や南部にある。特に高地地帯では少量ながら良質の水を供給している。これ以外の破砕岩水脈の井戸は南西部に多い。この地域の地下水は水質が不良であるのに、不運にも経済的に重要な穀倉地帯が広く分布している。その他の乾燥、半乾燥の地域では破砕岩水脈が家畜用、生活用、都市用、また鉱山用などに供給されている。

  安井倫子1001