Sydney

シドニー

　名前はイギリスの内務大臣シドニー卿に由来する。1788年1月総督フィリップ率いる第1船団は、ボタニー湾に到着したが、フィリップはボタニー湾を入植に適さないと考えて、船団をポートジャクソンへ移動し、現在のシドニー入り江に上陸した。この日が1月26日、現在はオーストラリア・デイという祝日になっている。1788年、植民地で最初の菜園がガーデン・アイランドに設けられ、最初の農場がファーム・コウヴ(農場入り江)、現在の植物園に設けられた。1789年天然痘のような病気が、入植地周辺のアボリジナル、イーオーラIora(Eora)を襲いその数を半減させた。また、入植地は食糧不足に悩んだ。オーストラリアで最初に建造された船、ローズ・ヒル・パケット号は、この年からシドニーとパラマッタを結ぶわたし船に使われた。1792年、郊外のライドRydeで農業が始まった。

　1793年に建てられた最初の教会は、おそらくカトリック囚人の放火によって1798年に消失した。1793年ジョン・パーマはウルムルーWoolloomoolooに土地を交付されたが、現在のサバーブの多くでも、土地の無償交付が行われた。1800年ロバート・キャンベルが民営の桟橋を初めて建設し、1803年に最初の新聞『シドニー・ガゼット』が創刊された。1804年カッスル・ヒルの反乱が起こり、フォート・フィリップがフラッグスタッフ・ヒル(現オブザヴァトリ・ヒル)に設けられた。

　1810年に総督マクウォリーが就任すると、都市計画を確立し、現在のシドニーのシティのレイアウトがほぼできあがる。多くの公共建築物も、この時期囚人労働によって建てられた。1810年から15年にラム・ホスピタルが建設された。1809年に郵便局、1811年に最初の精神病院が建築された。同年、ダーリング・ハーバー最初のマーケット桟橋も造られた。シティに現存する最古の建物、カドマンズ・コテジCadman’s Cottageは1813年に建てられた。1815年、軍病院がフラッグスタッフ・ヒルに建てられ、現在はナショナル・トラストの本部がある。フランシス・グリーンウェイの設計による建築物に、サウス・ヘッドの灯台(1818年から1818年)、総督官邸(1816年から1821年、後のニューサウスウェールズ音楽堂)、ハイドパーク・バラック(1817年から1819年)などがある。セント・ジェームズ教会(シドニー最古の教会)は1819年から1824年に建てられ、最高裁判所は1820年から1828年に建てられたが、これらもフランシス・グリーンウェイによる。植物園は1816年に設置された。1819年に最初のメソジスト教会、1824年に最初のプレスビタリアン教会が建てられた。ニューサウスウェールズ最初のカトリック教会、ブレスド・ヴァージン・メアリ教会は、1821年建築である。また、ダーリングハースト監獄(現在は技術学校)は、1822から1844年に建設された。

　マクウォリーの帰国後もシドニーの拡大は続く。ロックスのアーガイル・ストアーズは1826年建設が始まった。この年、最初の図書館もできた。翌年、シドニーに水を供給するためのバズビーズ・ボアBusby’s Bore1の建設も始まった。ヴォークルーズ・ハウス(ウラーラにある)は1827年から1850年、W.C.ウェントワースのために建設された。1829年、ラム・ホスピタルの北側の建物がニューサウスウェールズ立法評議会の建物になった。1831年『シドニー・ヘラルド』が創刊され、この年から1835年にかけてシドニー・グラマー・スクールの最初の建物が造られた。1833年には、シアター・ロイアルが建築された。1836年から1838年、グレイデスヴィルの精神病院が造られた。新総督官邸が1837年に着工され1845年から使用された。1837年セント・アンドリュースのアングリカン教会が着工された。1838年エリザベス・ベイ・ハウスが完成。1830年代、ウルームールー、ニュータウンNewtown、レッドファーンRedfern、サリー・ヒルズSurry Hillsなどで土地の再分割が行われた。1840年流刑が廃止されると、補助移民がこれに代わり労働力を提供するようになった。ヴィクトリア・バラックが1841年に着工され、ガス工場が操業し、ほどなくガス灯が見られるようになった。1841年最初の写真がハーバーで撮影された。また、パディングトンPaddingtonの開発が始まった。

　1842年シドニー市評議会が設立された。これがニューサウスウェールズの地方自治の始まりである。同年アドミラルティ・ハウスが建築され、1913年から連邦総督のシドニーの居宅となった。1842年から1861年キャンベルズ・ストアが建築された。1853年シドニー大学が設立され、エドマンド・ブラケットEdmund Blacketのデザインで、1855年から現存する建物の建築が始まった。1853年ラム・ホスピタルの南ウィングが造幣局に転用された。1854年マンリーとフェリーの定期便の運行が始まり、またモート造船所の建設が始まった。1855年には立法議会が生まれ、自治植民地となった。同年レッドファーンとグランヴィルGranville間にニューサウスウェールズ最初の鉄道が開通した。天文観測所が1856から1858年に、オブザヴァトリ・ヒルに建設された。1857年下水道が湾まで完成し、オーストラリア博物館の一部が完成した。1857年に電信、その後1880年に電話、1882年に電気が導入され、近代化が進行した。1858年にはピアモント・ブリッジPyrmont Bridgeが有料橋として開通した。最初のサバーブの市評議会がパディングトン、ランドウィクRandwick、レッドファーン、ウォータールーWaterloo、ハンターズ・ヒルHunters Hillなどで成立した。1861から1868年馬車のトラムが運行した。

　1866年ガーデン・アイランドが海軍に移譲され、基地として開発された。この年、マーティン・プレイスの中央郵便局の工事が始まり、1874年に完成、1887年に塔が付け加えられた。1868年セント・メアリ教会の工事も始まった。同年、タウン・ホールの礎石が置かれ、1889年にセンティニアル・ホールが完成した。1868年アレキサンドリア、1872年ライカートLeichhardtが自治体となった。1877年セント・ピーターズ、1879年カンタベリー、1883年コンコード、1886年コガラKogarah、1887年ハーストヴィルが自治体となった。1879年ロイアル・ナショナル・パークが設立されたが、これはオーストラリアで最初の、世界で第2の国立公園である。1879年国際博覧会のために、ガーデン・パレスが建設されるが、これは1882年に消失した。蒸気トラムが駅と博覧会場を結んで建設されたが、それが一般化したのは1883年以降である。首都圏水道局Metropolitan Water Boardは1880年に発足し、新マクウォリー灯台が1883年にほぼオリジナルと同じデザインで完成。1885年にはニューサウスウェールズ美術館が着工された。翌年、ストラスフィールドとホーンズビーHornsby間の鉄道が開通し、入植100年を記念してセンティニアル・パークがレイアウトされた。1889年太平洋に直接注ぐ下水道が完成。1891年にはストランド(ショッピング・モール)が完成した。クィーン・ヴィクトリア・ビルディングは1893年から1898年に建築された。1893年に路面電車の定期運行が始まり、1890年から1893年にはノース・ショアの鉄道が開通した。1894年にはカリンガイ・チェイス・ナショナル・パークKuringgai Chase National Parkが設立された。

　20世紀になるとシドニーは、仮の首都は置かれたものの、金融恐慌で大きな打撃を被ったメルボルンをしのぎ、ゴールドラッシュ期に失ったオーストラリア最大の都市の座を回復した。1901年から1906年鉄道がレッドファーンから北へ延長されて、セントラル・レイルウェイ・ステイションが建設された。1902年新ピアモント・ブリッジが開通。1869年に起源を持つ州立図書館の建設が1906年に始まった。州立図書館付属のミッチェル・ライブラリーは1910年にオープンした。1906年、オーストラリアで最初と主張される海難人命救助クラブがボンダイ・ビーチで設立され、海水浴の普及に貢献した。また、サーフィンがオーストラリアに初めて本格的導入されたのは、シドニーの北東海岸部ハーボードHarbordのフレッシュ・ウォーターのビーチで、1915年のハワイのカーナモクによるものである。それまでサーフボードは導入されていたが、誰ひとりそのうえに立ったものはいなかった。また、この年、シドニーの大都市圏建設提案は拒否された。

　1919年から1920年、マスコット空港が建設された。1926年には地下鉄シティ・サークルの一部が完成した。ハーバー・ブリッジは、1923年から1932年に建設されたが、当時世界最大のアーチ橋であった。これによってノース・ショアの開発が急速に進むことになる。1934年には第1次世界大戦の犠牲者にささげるアンザック記念碑がハイド・パークに完成したが、その内部の彫刻のデザインの斬新さは物議をかもした。第2次世界大戦中は、日本軍の魚雷艇がポートジャクソンに侵入し、被害を受けた。1949年にはニューサウスウェールズ大学、1964年にはマクウォリー大学が設立された。1957年建物の高度制限が撤廃され、高層化が進んだ。1961年には路面電車が全廃され、バスに取って代わられた。1968年にはシドニー・コウヴ再開発機構が作られ、ロックスの再開発が始まった。1973年にはオペラ・ハウスが完成した。

　最近のシドニーについては、多くの日本語ガイドブックや文献があるので、それを参照して欲しいが、80年代以降の大きな変化としては、ダーリング・ハーバー地区の再開発とシティの南部の再開発があげられる。これによって戦前の古いシドニーの多くは姿を消した。また、92年にはハーバー・トンネルが開通している。

　藤川隆男0203