Squatter(s)
スクオッター、スクウォッター
一般的な英語とは異なるいくつかの意味を持つオーストラリア史の用語である。19世紀初め頃のニューサウスウェールズでは否定的なニュアンスを持つ語であった。その多くが元囚人であった初期のスクオッターは、許可なしに公有地を占有しては、家畜を略奪するような人々であるとされた。1830年代までにこの語は次第に意味を変えてゆき、定住地とされた19県を越えて入植した多くの牧畜業者らがこの名で呼ばれるようになった。1836年、これらの牧畜業者らは、総督バークによって、年10ポンドの許可料の支払いで、公有地を牧草地として使用することを認められた。こうしてスクオッターは、単に公有地で放牧をする者の意味になった。彼らは土地保有権の保証、および先買権の獲得を要求し、これは1847年に認められた。40年代になると、単に内陸部の大規模な家畜所有者を意味する語となった。
ニューサウスウェールズやヴィクトリアほどではなかったが、南オーストラリアや西オーストラリアにもスクオッターは存在した。オーストラリアの土地で、農業や牧畜に適していると見られた土地の大部分は、彼らスクオッターに独占されることとなった。こうして、社会的にも経済的にも政治的にも影響力をもつ集団へと成長したスクオッターは、19世紀後半には、土地をめぐってセレクターと呼ばれる自営農民と激しく衝突した。スクオッターという語は、彼らが土地の自由保有権を獲得して後も依然として用いられ続けた。19世紀後半でも、オーストラリアにおける大規模な牧畜業者を指す語として使用され続けた。ただし現在では、スクオッターよりもパストラリストpastoralist(s)の方が一般的に用いられており、歴史研究の文脈では、より中立的用語であるパストラリストを用いるのが望ましい。
平野孝展01