Bigge Report
ビッグ報告書
ジョン・トマス・ビッグJohn Thomas Bigge(法律家・元トリニダード主席判事)が著した3通の報告書の通称。1820年代のニューサウスウェールズ植民地とヴァンディーメンズランド(現在のタスマニア)の状況をつたえており、当時の植民地行政に大きな影響を与えた報告書である。
ビッグは、本国の植民地省のために、1819年9月から1821年2月にかけて、ニューサウスウェールズ植民地とヴァンディーメンズランドを視察旅行した。1822年から1823年にかけて、植民地大臣のバサースト伯にその報告を提出した。報告書では、植民地に関する幅広いテーマが扱われている。その中には囚人の移送やその処遇、司法制度、農業や交易などが含まれていた。
報告書は全体にわたって、自由人から構成される社会と囚人から構成される社会の双方が、オーストラリアでは並存しうることを主張した。すなわち、囚人は過去を清算することを目的として自由人のために労働する。そのような自由人は囚人労働により資本主義経済を発展させ、イギリスの制度がもたらす文明化の恩恵をあたえるとする。つまり、植民地の監獄としての役割を強化することにより、流刑の費用を正当化する。同時に、囚人労働を自由人の植民者の事業の支柱とすることにより、植民地における資本主義的経営の発展を強調した。 ビッグ報告書は多方面に大きな影響を与えた。たとえば、ニューサウスウェールズにおける任命制による立法評議会の設立、ヴァンディーメンズランドのニューサウスウェールズからの分離、司法制度などの改正、囚人の受け入れの増加、牧畜産業の奨励などをその例として挙げることが出来る。また、ビッグの勧告は、植民地への大規模な投資を促進した。その1つの例が、オーストラリア農業会社Australian Agricultural Companyの設立である。
この報告書の背景には、当時の総督であるラクラン・マクウォリーLachlan Macquarieへの批判があった。したがって、マクウォーリ総督の囚人政策や公共事業に対するビッグの批判的な姿勢が、過度に報告書に影響したとする現代の歴史家も存在する。このように、現在、ビッグ報告書には様々な評価が与えられている。しかし、彼の報告書とその時期におこなわれた政策の変化が、オーストラリアの歴史の転換点になったのは明らかである。
坂本優一郎00